イタリアの経済 基本まとめ(201904更新)

1. 現況

(1)GDP(国内総生産)

2017年のイタリアのGDPは、1兆9348億ドルで、世界第9位の規模。ブラジルに抜かれてランクを一つ落とした。EU内では独、英、仏に次ぐ4位(世銀)。

欧州主要国の1970年以降の名目GDPの推移は下の図の通り(世銀)。イタリアは1990年代初頭までは欧州2位を伺う勢いだったものの、その後、リラの下落によりフランスとの差が広がり、英経済の順調な伸張もあり、1997年以降は、一貫して欧州4位に甘んじている。現在ではドイツはもちろん、英仏との差もかなり開いている。

 

(2)一人あたりGDP

2017年のイタリアの国民一人あたりのGDPは31953.0ドル(世銀)。イタリアの一人あたりGDPは、2000年代前半に独仏のレベルに接近したが、リーマンショック以降は逆に差が広がり、2017年にはドイツに12,000ドル以上の差を付けられている。

ドルベースなので、為替の影響を受けて数値は大きく蛇行している。イタリアの一人あたりGDPは2007年と2008年に日本を上回ったものの、2009年に再逆転している。

 

 

近年、イタリア人は1人当たりのGDPでスペインに追い越されるのではないかとしきりに心配している。

2018年4月に発表された国際通貨基金(IMF)の経済見通しでは2017年の1人当たりの購買力平価GDPでスペインがイタリアを上回ると予想され、実際に逆転した(世界銀行の統計では逆転していない)。この差はさらに開いていくと予想されている。

購買力平価GDPは、物価をもとに算出した交換レートを使って換算したGDPで、1人当たりの購買力平価GDPはより生活実感に近いとされる。

例えば、IMFの2018年10月の経済見通しでは2017年の購買力平価交換レートは1米ドル当たりイタリアが0.74ユーロ、スペインが0.65ユーロとされている。

(出典) https://www.imf.org

簡単に言うとアメリカで1ドル出して買えるものがイタリアでは0.74ユーロ、スペインでは0.65ユーロ出せば買える。同じものでもスペインの方が安く買える。

例えばイタリアのパオロ社、スペインのパブロ社のどちらも月の生産高が3000ユーロだとする。その生産高を購買力平価交換レートで割ると米ドル建ての購買力平価生産高が出る。

イタリア・パオロ社 3000 ÷ 0.74 = 4054.1ドル

スペイン・パブロ社 3000 ÷ 0.65 = 4615.4ドル

スペインの方が物価が安いため、同じ額を生産しても米ドルにするとスペイン・パブロ社の生産高の方が多くなる。そのため上記の逆転が生じた。これをイタリアのマスコミは「スペイン人の方がイタリア人よりリッチになった」と報じた。

ただし、あくまで1人あたりの購買力平価GDPの話しで、1人当たりの名目および実質GDPの逆転は今のところ予想されていない。

 

(3)実質GDP成長率

2018年の実質経済成長率は0.9% (欧州委員会)。2012年と2013年には二年連続してマイナス成長を記録した。2014年以降は成長が続いているものの、2015年から2017年まで3パーセント台の成長を続けたスペインなどに比べ回復の勢いは弱い。

 

 

(4)物価動向

2018年の物価上昇率は1.2% (欧州委員会)。その推移はユーロ圏平均の推移と大差ない。2016年には1990年以降で初めてのマイナスを記録し、デフレ不況が懸念された。2017年以降は再び上昇に転じている。

かつてのイタリアはインフレ大国で、1973年から1984年まで11年連続で二桁の物価上昇率を記録した。その後は10%超えることがなくなり、1998年以降はいくつかの例外を除いて3%を切っている。

1981年にイタリア中銀が国債の直接引き受けを中止したこと、そして1990年後半にはユーロ参加のために厳しい財政健全化策を実施したことが物価にも如実に反映している。

自動販売機の飲料の値段が30年間ほとんど変化していない日本と同様に、イタリアの物価も非常に安定している。そして経済の長期の停滞もよく似ている。

(参考) http://seriestoriche.istat.it

 

(5)失業率

2018年の失業率は10.6%。GDP成長率と同様、2008年から2009年にかけて経済情勢が急速に悪化した後の回復局面以降で、他の主要国と差がついている。2014年以降はユーロ圏平均を上回り、その差は年々拡がっている。

欧州主要国の中では、スペインの雇用が近年極端に悪化していた。イタリアは2012-13年にマイナス成長を記録したわりにはスペインほどの雇用の悪化はなかった。逆に言えば経済の実勢に即した雇用調整が十分に行われなかったともいえる。これはスペインに比べ景気回復が弱い要因の一つかもしれない。

 

(6)貿易

イタリアの2018年の商品輸出の総額は4629億ユーロ、商品輸入の総額は4240億ユーロで、貿易収支は389億ユーロの黒字だった (ISTAT)。

(参考) https://www.istat.it

商品の最大の輸出先国はドイツで、輸出品は金属・金属製品、機械、交通手段、食品、服飾品など。EU域外では米国が最大の輸出先で、輸出品は医薬品、機械、交通手段、服飾品、食品など。

 

 

最大の輸入先国もドイツで、ドイツとの貿易収支は大きな赤字。とくに両国とも得意としている自動車では大きな差をつけられている。イタリア人はベンツやBMWをたくさん買っているが、ドイツ人はフィアットやアルファロメオをそれほど買ってくれない。

米国からの商品の輸入は輸出に比べてかなり少ない。日本との貿易も同じ傾向で、日本の赤字である。日本人はイタリアの服飾品や食品をたくさん消費しているが、イタリア人は日本の服飾品や食品をそれほど消費していない。日本食ブームとかなんとかいっても、日本人のイタリア好きに比べればかわいいもの。

反対に対中国では輸入の方が圧倒的に多い。ほとんどの商品ジャンルでイタリアの赤字である。

 

 

2. 戦後経済の主な流れ

1958年から1963年にかけて高度成長。「経済の奇跡」と呼ばれる。
1960年代後半から大規模な労働争議が続く。
1970年、労働者の権利を大幅に強化する労働者憲章法が成立。
1975年、戦後はじめてのマイナス成長を記録。
1980年代前半、イギリスを抜き世界第5位の経済規模となる(すぐに抜き返される)。
1990年代、通貨統合へ参加するため、大規模な財政健全化策を継続して実施。
2000年代、ユーロ圏平均を下回る低成長が続く。
2007年、米でサブプライムローン問題が発生するも、イタリアへの影響は限定的。
2010年、欧州ソブリン危機発生後、世界から財政の成り行きを不安視される。
2012年から2013年まで2年連続のマイナス成長

 

3. 為替と金融

戦後イタリアは、「安いリラ」で輸出攻勢をかけ経済成長を達成してきた。一方で、不安定な貨幣価値と高インフレに悩まされた。そのため、通貨を安定させ、インフレを抑えるための政策がしばしば実施された。かつての中央銀行はイタリア銀行(Banca d’Italia)。現在は、欧州中央銀行に権限委譲。

1973年3月、「欧州通貨のヘビ」導入。
1979年3月、欧州通貨制度(EMS)が発足。
1981年、イタリア中銀による国債の直接引受を停止。
1998年5月、イタリアのユーロ参加が決まる。
2002年1月、ユーロ紙幣及び硬貨の流通はじまる。

 

統計参考サイト
欧州委員会 http://ec.europa.eu/eurostat
世界銀行 http://data.worldbank.org/indicator
国連 https://comtrade.un.org
イタリア国家統計局 (ISTAT) https://www.istat.it/it/

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