欧州議会選挙2019 イタリア目線

2019年5月23日から26日までの間、欧州議会議員選挙が行われます。そこで、今回の選挙のポイントをイタリア目線でまとめてみます。

目次
1. 欧州議会と政党別所属議員数
2. 欧州議会議員選挙の選挙制度
3. 注目ポイントと予想

1. 欧州議会とは

欧州議会(Parlamento europeo)は、EU理事会(Consiglio dell’Unione Europeo)、欧州委員会(Commissione europea)と並ぶ欧州連合の主要機関のひとつ。

欧州議会の歴史は1952年に設立された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の中に設けられた共同総会にまで遡ることができる。共同総会には各国の国会議員から選ばれた者が参加した。

1960年に欧州経済共同体(ECC)が設立されあとも名称は「総会」のままで、諮問的機関に過ぎなかった。しかし、1962年には欧州議会と名乗ることを自ら決議した。

1976年に欧州議会選挙法を制定。それに基づいて1979年にはじめて欧州市民による直接投票が実現した。1987年の単一欧州議定書でようやく正式に欧州議会という名称で呼ばれることとなった。現在では、欧州議会はEU理事会と共同で立法権を行使する地位を得ている。
参考:辰巳浅嗣編著『EU』第3版、創元社、2012。

会議は一ヶ月のうち1週間はストラスブールで、残りはブリュッセルで行われている。

ガラス張りのストラスブールの会議場 (出典:https://www.infobuildenergia.it/)

現在の議長はイタリア人のアントニオ・タヤーニ氏(65, EPP) 。議長は採決に参加しない。

現在の欧州議会の定数は751人で全議席が改選される。そのうちイタリアに与えられている議席数は全体の9.7%にあたる73人。イギリスのEU離脱が選挙前に実現していれば3議席が追加されることが決まっていたが、離脱期限が10月31日に再延長され、イギリスも選挙に参加することになったので議席数に変化はない。

現在の政党別議席数

2019年4月現在の欧州議会の政党別分布状況は次の通り。

政党名 (英語の略称 – 日本語 – イタリア語) 議席数 イタリア選出議員数
EPP – 欧州人民党
Partito Popolare Europeo    
217 12  (うち頑張れイタ
リア9)
S&D – 欧州社会民主進歩連合
Alleanza progressista di Socialisti e Democratici
186 31 (うち民主党 26)
ECR – 欧州保守改革
Conservatori e riformisiti europei
76 5 (うちイタリアの
同胞2)
ALDE – 欧州民主自由連合
Alleanza dei democratici e liberali per l’Europa
68  1 – Più Europa
GUE/NGL – 欧州統一左派/ 北欧緑左派
Sinistra unitaria europea/ Sinistra verde nordica
52  3 (うちチプラス派2)
Green/EFA – 緑/ 欧州自由連合
Verdi/ Alleanza libera europea
52  1 緑の連盟
EFDD – 自由と直接民主主義の欧州グループ
Gruppo Europa della libertà e della democrazia diretta
41 14 (うち五つ星運動
11)
ENF – 諸国民と自由の欧州
Europa delle nazioni e della libertà
37 6 北部同盟
NI – 無所属 21
議長 アントニオ・タヤーニ (EPP) 1 FI (上の数字に含む)
合計 751

参考:http://www.europarl.europa.eu/, /meps/it/

上の表の右側の欄には5月16日時点でのイタリア人議員の数と国内所属政党を示した。

5年前の2014年の選挙の結果は民主党 31、 五つ星運動 17、頑張れイタリア 13、北部同盟 5、チプラス派 3、Ncd 3、SVP 1であった 。レンツィ首相(当時)率いる民主党が得票率40.8%と圧倒的に支持された。

2014年の選挙結果⇒Repubblica.it

その後、何人かの議員の所属変更があり今の状態に至っている。

各欧州政党・グループの特徴

EPP:欧州議会の第一党。ドイツCDU、スペイン国民党などが所属。

S&D:ドイツSPD、イタリア民主党(PD)などの左翼勢力が所属。

ALDE:民主自由勢力。スペイン・シウダダノス、イタリア急進党(Radicali)らが参加。欧州主義的。中道右派も受け入れる。最近、仏マクロンのアン・マルシェ!が加入。

ECR:保守主義者と改革主義者。イタリアからは戦後のネオファシズム運動の流れをくむイタリアの同胞(Fratelli d’Italia)が所属。メローニ党首率いる同党は今回の選挙運動用のマークに「主権主義者」の文言を入れ、国家主権重視の立場を鮮明にしている。

ENF:ENFにはサルヴィーニ副首相率いる同盟(Lega)が所属。欧州懐疑的主権主義的傾向。同氏は4月8日にミラノで「良識あるヨーロッパに向かって」というスローガンのもと、思想を共有する勢力の大同団結をうながすためのイベントを開催。

EFDD五つ星運動(Movimento 5 Stelle)が所属している。五つ星運動リーダーのディマイオ副首相は独自の会派を設けようと動いたが、25名7カ国以上という現在の設立条件があるため、今のところ実現していない。選挙後にこの基準をクリアーできるかが一つのポイント。

Green/EFA:イタリアの緑の連盟が所属。

参考:https://www.money.it/sondaggi-elezioni-europee-2019

 

 

2. 欧州議会議員選挙の選挙制度

選挙は比例代表制による
欧州議会議員選挙は比例代表制で行うことが定められている(アムステルダム条約から)。しかし、細かいルールは各国が自由に定めることができる。例えばイタリアのように議席を得るために必要な最低得票率(阻止条項)を定める国もあればドイツのようにそういった定めのない国もある。
参考:https://www.ilpost.it/2019/04/02/, /2019/05/16/
欧州議会選挙に関するイタリア法(上院HP):Legge 24 gennaio 1979, n. 18

イタリアでの選挙権は満18歳から。今回は2019年5月26日までに18歳になる人が投票できる。被選挙権は満25歳から。

選挙区
イタリアでは下の図ように5つの選挙区に別れている。

出典:http://www.europarl.europa.eu/italy/

1区(灰色) 20議席:ヴァッレ・ダオスタ、ピエモンテ、ロンバルディア、リグーリア
2区(茶色) 14議席:トレンティーノ・アルトアディジェ、ヴェネト、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア、エミリア・ロマーニャ
3区(赤色) 14議席:トスカーナ、マルケ、ウンブリア、ラツィオ
4区(黄色) 17議席:アブルッツォ、モリーゼ、カンパーニア、プーリア、バジリカータ、カラブリア
5区(ピンク) 8議席:シチリア、サルデーニャ   (すべて州名)

 

選挙区ごとに候補者名簿を作成
参加する政党または政党連合は選挙区ごとに候補者名簿を作成し提出する。ひとつの選挙区だけでもかまわない。

ひとつの候補者名簿には少なくとも3名の候補者が必要であり、上限はその選挙区の定員数となっている。複数の選挙区に重複して立候補することが可能。例えば、頑張れイタリア(FI)のベルルスコーニ党首は5選挙区のうち4つの選挙区で立候補している。名前がないのはタヤーニ欧州議会議長のいる3区(ローマ含む)のみである。
参考:https://dait.interno.gov.it/elezioni/trasparenza/europee2019

ちなみに、FIの3区と4区の名簿には現職のアレッサンドラ・ムッソリーニ氏の名もある。ベニート・ムッソリーニの孫として日本でもしばしば話題になる人物だ。前回選挙でもFIから立候補し当選している。

投票用紙と男女平等ルール
投票には下のような用紙を使う。

左の政党マークにバツ印をつけるだけで有効となる。希望する場合、右に候補者の氏名を3名まで記入することができる。3人記入する場合、男女双方から選ばなければ3人目の記名は無効となる。

議席数の配分方法
投票はまず全国レベルで集計される。全国集計で得票率が4%を超えなかった政党は議席を得ることができない(阻止条項)。※少数言語地域の特例あり。

次に阻止条項ではじかれた政党の得票を除いた各党の得票総数をもとに各党の当選者数を確定する。各党の得票率と議席シェアがほぼ等しくなるヘアー式を使う。

ヘアー式では、まず、全国の投票数の合計を全議席数73で割る。その解がクオータ(当選基数)になる。次に、各党の総得票数をこのクオータで割る。計算には小学校で勉強した「あまり算」を使う。例えば解が「7あまり4」なら7議席配分する。

次に「あまり」の大小を比較し、大きい方から1議席ずつ配分していく(同数はくじ引き)。配分した議席数が73に達した時点で配分は終了する。

根拠条文:Legge 18/1979, art. 21 c.2
参考:コトバンク

政党ごとの獲得議席数が確定すると、今度はそれを得票数に応じて各選挙区に配分する。

配分方法にはやはりヘアー式を使う。

まず、党の総得票数を獲得した議席数で割る。これが、その党にとってのクオータとなる。次に各選挙区ごとの得票数をクオータで割る。その「あまり算」の答えが各選挙区ごとに配分すべき議席数になる。議席が残れば、先ほどと同様に「あまり」が大きい方から配分する。

最後に、各選挙区に配分された議席数をもとに当選者を決定する。決定は候補者個人の得票数に基づく。

先ほど述べたように、同一人物が複数の選挙区に立候補できるため、複数の選挙区で当選することがある。その場合は、1カ所を選び、辞退した他の選挙区では次点が繰り上げ当選となる。

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