夫婦別姓 イタリアの場合② 子の姓

12月16日、夫婦の姓に関し、初の憲法判断が下されました。

夫婦別姓を認めないことは違憲ではない

明治時代から続く夫婦別姓を認めない民法の規定について、最高裁判所大法廷は「旧姓の通称使用も行われており憲法に違反しない」という初めての判断を示しました。
出典:http://www3.nhk.or.jp/

ただし、裁判官の間でも意見が分かれていたようです。

今回の判決には、様々な受け止め方があろう。大法廷でも15人の裁判官のうち、5人が民法の規定を違憲だと判断した。
出典:http://www.yomiuri.co.jp/

今後、国民全体で議論を深めていき、国会の場でこの問題を解決または緩和して欲しいと思います。

本来、立法者(=国民)の裁量に委ねられるべき事項について、裁判所が判決をもって立法を強制するという非民主的な事態は、とりあえず回避されました。

イタリアにおける子の姓

さて、8日にアップした「夫婦別姓 イタリアの場合 まとめ」で宿題にした「子供の姓」の問題です。

日本における夫婦別姓の議論の中では、子の姓をどうするかも、重要なテーマになっているようです。夫婦別姓のイタリアでは、どうような規定になっているのでしょうか。伊国会ホームページに掲載されているレポートの中に以下の文章を見つけました。

嫡出子が父の姓を名乗る明確な規定はない

Non esiste nell’ordinamento italiano una specifica disposizione diretta ad attribuire ai figli legittimi il cognome paterno. Ciononostante, al figlio legittimo viene automaticamente attribuito il cognome del padre ed è costantemente negata ai genitori la possibilità di optare per il cognome materno o il doppio cognome.

イタリアの法秩序において、嫡出の子に父の姓を与えるという直接の規定は存在しない。にもかかわらず、嫡出の子には父親の姓が自動的に与えられ、また、両親が母の姓又は複合姓を選択する可能性は一貫して否定されている。
出典:下院ホームページ

意外にも、法律上の婚姻関係にある夫婦の間にできた子(嫡出子)が、父母どちらの姓を名乗るかについて明文の規定はないとのこと。しかし、実務では、嫡出子は父の姓を名乗るのが当然で、自動的にそう処理されているようです。

非嫡出子は先に認知した親の姓を名乗る

一方、非嫡出子に関しては、民法第262条に明文の規定があります。

Art. 262. Cognome del figlio nato fuori del matrimonio.
1. Il figlio assume il cognome del genitore che per primo lo ha riconosciuto. Se il riconoscimento è stato effettuato contemporaneamente da entrambi i genitori il figlio assume il cognome del padre.
2. Se la filiazione nei confronti del padre è stata accertata o riconosciuta successivamente al riconoscimento da parte della madre, il figlio può assumere il cognome del padre aggiungendolo, anteponendolo o sostituendolo a quello della madre.

第262条 婚姻外で生まれた子の姓
1. 子は最初に認知した親の姓を名乗る。認知が両親により同時に行われた場合、父の姓を名乗る。
2. 父との親子関係が、母による認知の後に確認または認知された場合、子は父の姓を母の姓に加えるか、又は、母の姓に代えて名乗ることができる。

非嫡出子の場合、父母により同時に認知された場合のみ、父の姓が優先されます。日本では、母親が婚外子を認知する必要はなく、親子関係は当然に認められますが、イタリアの場合、母親も認知の手続きを踏みます。そして、子は先に認知した方の姓を名乗ります。

2006年、破毀院(最高裁)は、後から父親が認知した場合に、子は父の姓を自動的に名乗る訳ではなく、むしろ、母の姓がすでに子のアイデンティティーの一部となっている場合は維持されるべきであるとの判断を示しました (Sentenza n. 12641 del 26 maggio 2006)。
情報源:下院ホームページ

余談ですが、女優のソフィア・ローレン(1934年生まれ)は婚外子として生まれました。父のリッカルド・シコローネが母のロミルダ・ヴィッラーニとの結婚を望まなかったためです。本人は父親に認知されましたが、妹のマリアは長い間認知されずシコローネ姓を得られませんでした。母ロミルダが主人公のテレビドラマ”La mia casa è piena di specchi”では、マリアの認知を勝ち取るために母が執念を燃やす姿が描かれています。実母を演じるソフィア・ローレンの演技も堪能できます。動画(イタリア語、字幕なし)はこちら(Rai.tv)で視聴できます。

誕生の後に父母が婚姻し、子に嫡出子の身分が認められた場合、子は父の姓を名乗ります。ただし、子が成年に達している場合、それを知ってからから1年以内であれば、母の姓を維持するか、もしくは、現在の姓に父の姓を後に加えるか(aggiungere)、前に置く(anteporre)かを選ぶことができます。
情報源:下院ホームページ

嫡出子に自動的に父の姓を与えるのは人権侵害

2014年1月、新しい動きがありました。

La Corte europea aveva infatti accettato la richiesta fatta da Alessandra Cusan e Luigi Fazzo, due coniugi di Milano che nel 2006 avevano denunciato le norme italiane che rendevano difficile – se non praticamente impossibile – scegliere il cognome per i propri figli.

欧州人権裁判所は、ミラノのアレッサンドロ・クザンとルイージ・ファッツォ夫妻が、2006年に起こした、イタリア法の規定は、自らの子のために姓を選択することを、不可能でないにしても、難しくしているとの訴えを認めた。
出典:http://www.ilpost.it/2014/07/15/legge-scelta-cognome-figli/

1999年4月に生まれたマッダレーナちゃん(嫡出子)に母の姓を与えようとしてミラノ市に拒否されたのがきっかけだそうです。

Nella sentenza i giudici sottolineano anche che la possibilità introdotta nel 2000 di aggiungere al nome paterno quello materno non è sufficiente a garantire l’eguaglianza tra i coniugi e che quindi le autorità italiane dovranno cambiare la legge o le pratiche interne per mettere fine alla violazione riscontrata.

判決において裁判官は、2000年に実施された、父の姓に母の姓を加えることを可能とする措置だけでは、両配偶者の平等を保障するのに十分ではなく、イタリア当局は確認された人権侵害状況を終わらせるため、法改正または実務の変更を行うべきであると判断しました。
出典:http://www.ilmessaggero.it/

欧州人権裁判所とは(英:European Court of Human Rights)
1959年にフランスのストラスブールに設置され、1998年11月1日条約改定により常置組織となった人権救済機関。欧州評議会加盟国を対象とする。国家間の紛争を処理する国際連合の国際司法裁判所とは異なり、欧州人権裁判所は国家対国家だけでなく、個人や団体の国家に対する提訴も受け付けるが、この点は欧州連合の欧州司法裁判と同じである。
出典:Hatena Kyword

これがきっかけになり、イタリアの立法府において、法改正に向けた動きが本格化しました。そして、2014年9月に、出生時に母親の姓を与えることができるよう民法を改正する法案が下院を通過しました。法案の概略は以下のようです。

I genitori coniugati, all’atto della dichiarazione di nascita del figlio, potranno attribuire, secondo la loro volontà, il cognome del padre o quello della madre ovvero quelli di entrambi nell’ordine concordato. In caso di mancato accordo tra i genitori, al figlio sono attribuiti i cognomi di entrambi i genitori in ordine alfabetico. I figli degli stessi genitori coniugati, nati successivamente, portano lo stesso cognome del primo figlio. Il figlio al quale è stato attribuito il cognome di entrambi i genitori può trasmetterne al proprio figlio soltanto uno, a sua scelta.

子の出生届を提出する際、両親は、自らの意思にしたがい、父又は母の姓、もしくは、その両方を合意した順で子に与えることができる。父母の間に同意がない場合、両者の姓をアルファベット順で与える。同じ両親から生まれた次の子たちは、最初の子と同じ姓を名乗る。両親の姓を与えられた子は、自分の子には自己の選択するどちらか一方の姓を与える。
出典:http://www.cognomematerno.it/Home/tabid/36/Default.aspx

しかし、この法案、下院を通過して1年以上が経過したのに、上院ではまだ審議すら始まっていないようです。やる気ないんでしょうか。
情報源:http://www.senato.it/

嫡出子に母の姓を子に与えることができるようになることは、イタリアではかなり画期的なことのようです。一方で、子の姓を統一するなど、「家族の一体感」みたいなものへの配慮もそれなりにあるようです。

蛇足的にひとつ。夫婦別姓の国では姓を変えるのはそう簡単なことではありません。日本の場合、気に入った姓の人と結婚することで姓を書類1枚で変更できます。離婚しても婚姻時の姓を維持できます。国際結婚して相手の姓を選択することで、日本では超レアなカタカナ姓を使用することもできます。

イタリアにはこんな自由はありません。夫婦同姓は窮屈だという議論ばかりですが、この点はもう少し認識されてもよいような気がします。

今回違憲判決がでた待婚期間についてはまた日を改めて。

(おわり)

 

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