イタリアの気候 基本まとめ

2. 気団、気圧、風

 

イタリアの複雑な気象を作り出すのは、日本の場合と同様に気団や気圧の移動だ。

 

様々な気団

気団は気温や湿度などが広い範囲で均等になった空気の塊で、空気が一定の場所に長時間留まることで形成される。移動性の高気圧や低気圧があまり通過しない高緯度か低緯度の高気圧の圏内で生まれやすい。その塊が流出することで、移動先の気象に変化をもたらす。

気団はその発生地によって性質がそれぞれ異なる。北極気団は冷たく、熱帯気団は暖かい。大陸性気団は乾いており、海洋性気団は湿っている。寒帯(中緯度)気団でも、例えばロシア方面から流れ込む寒帯大陸性寒気団は非常に冷たい。

イタリアの気象に影響を与えるおもな気団を図にすると下のようになる。

 

 

高気圧と低気圧

大雑把に言って、高気圧は周囲より気圧のたかいところで、大気は気圧の低い方に向かって時計回りに吹き出し下降気流が発生する。反対に低気圧は周囲より気圧の低いところで、気圧の高い方から吹いてくる風を反時計回りに巻き込んで上昇気流が発生する(南半球では回転が逆になる)。

一般に高気圧に支配されると天気は好天となり安定する。反対に低気圧では上昇気流が雲をつくり雨や雪を降らせる。ヨーロッパの気象では以下の二つがとくに重要だ。

アゾレス高気圧は常に大西洋上にありイタリアの気候に大きな影響を及ぼす。移動するときは周辺の大気が不安定になるものの、すっかり覆われると安定した好天が続く。

アイスランド低気圧は大西洋の北方、アイスランドとグリーランドの中間あたりにほぼ一年中ある。夏以外の季節にはよくこの低気圧が南下してきてイタリアに雨や雪を降らせる。

 

風の名前

イタリアでは下の図のように決まった方向から吹いてくる風に名前がつけられている。例えば北から吹きつける冷たい風をトラモンターナと呼んだりする。

 

出典: mosaicodiciottoli.wordpress.com

 

3. イタリアの四季

イタリアの代名詞のひとつである夏の美しい地中海を演出するのは、二つの熱帯気団だ。その一つ、熱帯海洋性気団は、夏が近づくと大西洋から伸びてきて次第に地中海全体を覆う。この気団に支配されると気象は安定し、過ごしやすい好天が続く。

もう一つの熱帯大陸性気団は北アフリカで発達する。この気団が北上すると蒸し暑い酷暑になる。下は夏の気圧配置の一例である。Aは高気圧、Bは低気圧を意味する。

典型的な夏の気圧配置 (出典: ilmeteo.it)

北イタリアではこの大西洋から張り出してくる高気圧の移動が原因で悪天候になることがある。

9月になると南の温暖高気圧が次第に弱まり、北から寒気が流れ込み大気がしばしば不安定になる。いくつかの低気圧が大西洋からフランスをまたいで地中海まで移動してくる。大西洋はまだ十分に暖かいので低気圧は湿っており、イタリアで雨を降らせる。11月は通常一年でもっとも雨が多い。ヴェネチアの高潮もこの時期に発生する。ポー平原で霧が多くなる。

秋の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

 

12月になると南のアゾレス高気圧はすっかり弱まり、北方からしばしば寒気が押し寄せてくる。特に北部で気温の下降が顕著で、しばしば雪が降る。1月は一年で一番寒い。

冬の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

 

ロシアからやってくる寒波がアドリア海側を中心にまとまった雪を降せるときがある。とはいえ、日本の日本海側のような大雪にはならない。アドリア海沿岸の北方、特にトリエステでは寒く強い北東の風ボーラが吹く。

冬の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

2月になると徐々に気温が上向くものの、しばしば低気圧がやってきて雨や雪を降らせる。とくにティレニア海側やサルデーニャ島で雨が多い。下の図では寒冷前線を伴う低気圧の南下によりイタリア半島に雨が降っている。

等圧線に沿って北西の冷たい風マエストラーレ(フランスのミストラル)が吹いている。フランスを通過した直後のマエストラーレは比較的乾いているが、地中海で再び湿気を吸って雨を降らせる。

2月の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

 

3月になると冬に冷え込んでいた北部の気温が顕著に上がりはじめる。とはいえ寒波の流れ込みもしばしばある。下旬になると南から暖かい風が吹き始める。一定数の低気圧がイタリアを通過し雨や雪を降らせる。風は強く、天気は変わりやすい。

3月の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

 

4月なると大西洋のアゾレス高気圧の発達の影響で南部を通過する低気圧の数がめっきり減る。北部を通過する低気圧の数はかわらない。北の寒気と南の暖気がぶつかる場所でしばしば雷雨などの大荒れの天気が発生する。

4月の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

 

5月になると寒気の流れ込みがなくなる。ミラノの5月の雨量が示すとおり北部では雨が多い。対称的に南部では雨量が顕著に減少して早くも乾期が始まる。この時期の南部では南風が強いので山火事が起こりやすくなる。

5月の天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

 

初夏 6月は春から夏への変わり目で、気温はどんどん上昇するものの、春らしい強風が吹くこともある。北部や中部では昼から夕方にかけて気温の急変を伴うびっくりするような雷雨がしばしば発生する。とはいえ、日本の梅雨にあたる現象はないので全般的に過ごしやすい。南部の雨量はさらに減る。

7月になればアゾレス高気圧の勢力が強まり、大西洋からやってくる低気圧はアルプスより下に移動することがなくなる。そのかわりジェノヴァ湾で発生する低気圧が大気を不安定にさせることがある。

ところで、イタリアのテレビのお天気コーナーでは日本でおなじみの等圧線や前線が書き込まれた古典的な天気図をあまり使わない。ネットでは下記の場所で閲覧できる。下の例ではTが低気圧、Hが高気圧を意味する。
https://www.ilmeteo.it/portale/carte-del-tempo

天気図の1例 (出典: ilmeteo.it)

また、下記のサイトではリアルタイムの気象画像をみることができる。https://www.meteoblue.com/it/tempo/mappa/precipitazione/italy

もっと詳しい天気図はヨーロッパ中期予報センターのウェブサイトで閲覧できる。

 

(参考文献・サイト)
ELENA MACARRA, IL METEO: in pillole… (Italian Edition) Kindle版(2014)
ilmeteo.it 他

 

(了)

 

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