イタリアの移民問題 最新情報まとめ

2018年10月、治安と移民に関する新しい政令が施行されました。この機会にイタリアの移民問題について簡単にまとめてみます。

目次
1.現状まとめ① イタリアに押し寄せる移民の波
2.現状まとめ② 救助船受け入れ拒否と新しい政令

1.現状まとめ① イタリアに押し寄せる移民の波

きっかけは「アラブの春」

2010年代初頭に北アフリカ諸国で民主化運動(1)が活発になり、政情が不安定になって以来、ボートに乗ってアフリカを出てヨーロッパを目指す人たちの数が極端に増加しています。

下の表を見ると、イタリアに船で到着し上陸した移民の数(N migranti sbarcati)と難民申請の数(Richieste di asilo)が2011年以降急増していることがわかります。

引用元:http://www.today.it/

「マーレ・ノストルム」活動の開始

2013年10月にはイタリア南端のランペドゥーザ島の沖合で移民を乗せたボートが転覆し確認されているだけで366人が命を落とすという痛ましい事故が発生しました。この直後にイタリアは地中海を漂流する移民の監視と人命救助を行う活動「マーレ・ノストルム」を単独で開始します。この活動は2014年11月にEUレベルの活動「トリトン」に引き継がれます(2)。

皮肉なことに「マーレ・ノストルム」活動がほぼ通年で実施された2014年に、イタリアに到着する移民・難民の数が爆発的に増えます(前年の約4倍)。そして2015年以降もほぼ同様の数の移民が毎年押し寄せています。

移民対策費の増大

ボートでやってくる移民の増加により、移民収容施設に一時滞在する移民の数も激増しています。下の図が示すのはイタリア国内の移民収容施設にいる移民の数です。当然、行政の経費負担も急増しています。

出所: Documento programmatico di bilancio 2017 (Ministero dell’Economia), p.10.

イタリア、ギリシャ、スペインはEU域内を目指して移動する移民たちが最初に到着する国のため、ほかの欧州諸国に比べ負担が極端に大きくなっています。下の図は2018年1月1日から8月29日までに海を渡って各国に到着した移民の数を示しています。

出所: https://www.iom.int/

2015年にはEUレベルで移民問題に対処するための「欧州移民・難民アジェンダ」が策定され、窓口になっている国が受け入れた移民を他の欧州諸国に再配置(relocation)する枠組みが作られました(3)。

しかし、実際の再配置作業はなかなかスムーズに進まないようです(4)。

移民の移動経路と出身国

移民たちの移動経路はおよそ下の図のようです。移民の出身国はナイジェリア、ギニア、セネガル、エリトリア、スーダンなどで、リビア、ニジェール、チャドは移民の経由地になっています。

海からイタリアに到着する移民の多くは、チュニジアまたはリビアを出航した人々です。

出所: 【移民危機】 イタリア、受け入れ中止検討 「飽和状態」(BBC)

上陸したボート移民たちが自己申告した出身国については下の表のようなデータがあります(2018年の年初から6月12日までのデータ)。

出所: Quanti migranti sono sbarcati in Italia da inizio 2018

2018年上半期の上位は上の表のようにチュニジア、エリトリア、スーダンの順になっています。

移民到着のピークと減少

2014年以降激増したボート移民の数は、2016年にピークに達します(5)。

ところが、2017年7月を境に急減します。下の表は2014年1月以降の海経由でイタリアに到着した移民の数を示しています。2017年も7月まで前年を上回るハイペースだったのが、7月以降は逆に前年を大きく下回っていることがわかります。そしてこの流れは2018年も続いています。

出所:Migranti. Ismu: «Ecco i numeri del 2017» (vita.it)

移民急減の要因の一つにイタリアとリビアとの間で結ばれた移民に関する協定が挙げられています。2017年8月から、その協定に基づいてリビアを出発しようとするボートの動きを抑止する活動が始まったからです(6)。

また、チュニジアとの間にも2011年に締結した移民に関する二国間協定があり、多少のごたごたはあるもののイタリアに到着したチュニジア人の本国送還を行う枠組みがそれなりに機能しているようです(7)。

しかし、この移民急減は3月の総選挙で与党(中道左派と少数の中道右派)に有利に働きませんでした。より厳格に管理された治安・移民政策を唱える中道右派連合が、台風の目である「五つ星運動」とともに勝利したことで、イタリアの移民政策に変化が現れました。(次ページに続く)

参考:
(1) 「アラブの春」と中東・北アフリカ情勢(外務省)
(2) Da Mare Nostrum a Triton (Senato) , Le differenze tra “Triton” e “Mare Nostrum” (Il Post)
(3) Cos’è la ricollocazione? , European Agenda on Migration  (European Commission)
(4) 欧州委員会、移民・難民に関する欧州アジェンダの実施努力を再度促す(eeas.europa.eu), Migranti: a che punto siamo con i ricollocamenti (vita.it)
(5) 【移民危機】イタリア到着の北アフリカ移民 最高記録を更新(BBC)
(6) Migranti, il patto con la Libia frena gli arrivi: da luglio -68%
(7) A che punto è la trattativa sui rimpatri con la Tunisia (agi.it), La Repubblica, 08/10/2018, p.4.
冒頭写真出所: Le rotte dei migranti: il Mali (www.europinione.it)

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