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イタリアの市長選挙の仕組みと今回の地方選の結果

投稿:2017年07月03日 | 更新:2017年07月03日

6月11日と25日(決選投票のみ)に、イタリア全国1004の市(コムーネ)で地方選が行われました。来年には任期満了による国政選挙が控えていることとから、イタリアの将来を占う意味でも注目度の高い選挙となりました。この機会にイタリアの市長選挙の仕組みと今回の選挙結果を簡単にまとめます。

1.市長選の仕組み

今回の地方選で選挙を行ったのは合計1009の市(コムーネ)です。うち5つの市は5月7日に投票を行ったので、6月11日に選挙をおこなったのは1004の市でした(リスト)。全部で7978ある市の約8分の1にあたります。
参考:http://tg24.sky.it/politica/ , http://www.tuttitalia.it/

イタリアの地方自治制度は州ー県ー市の3段階のレベルに分かれていますが、2014年の改革(Legge Delrio)により県レベルの直接選挙が廃止されたため、地方選挙は州レベルと市レベルのみとなっています。
参考:http://www.assemblea.emr.it/

今回の地方選は市レベルで、選ぶのは市長(sindaco, 任期5年)と市議会議員(consiglieri comunali)です。選び方は人口15,000人以下の市と、人口が15,000人を超える市で多少異なります。

投票方法

(A)人口が15,000人を超える市における投票方法

人口が15,000人を超える市では、下の図のような投票用紙を1枚だけ使用して投票します。投票用紙には市長候補の氏名が、あらかじめプリントされています。

そして、市長候補の氏名の下に、その候補を支持するグループのシンボルマークが印刷されています。各グループは「市議会議員候補者リスト」を予め提出します。このリストと市長候補は「連結」しています。

この1枚の投票用紙で、市長候補への投票、市議会議員候補者リストへの投票、市議会議員候補者個人への投票の三つの要素がカウントされます。

出典:https://pdtrezzano.wordpress.com/

 

内務省のページには五通りの投票方法が列記されています[1]。

①市長候補の氏名とその市長候補に連結したリストのシンボルマークにX印をつける

X印をつけた市長候補と、シンボルマークにX印を付けたリストへ投票したことになります。

 

②市長候補の氏名にX印を付け、その候補と連結していないリストのシンボルマークにもX印をつける(分離投票 voto disgiunto

連結していない市長候補と市議会議員候補者リストにそれぞれ投票することもできます。また、マークしたシンボルマークの横に市会議員候補者の氏(同姓の場合は氏名、同姓同名の場合は生年月日も)を記入することで、特定の市議会議員候補者個人へ投票することもできます。

 

③市長の氏名の上だけにX印を付ける

下の図のように、一カ所、市長の氏名の上だけにX印を付けた場合、市長候補への投票のみ有効とされ、リストは無投票となります。

 

④リストのシンボルマークにだけX印をつける

この場合、リストだけでなく、リストが連結している市長候補にも投票したことになります。

 

⑤市議会議員候補者にだけ投票する

候補者の名前を二名まで記入する方法もあります。リストのシンボルマークにX印を付けても付けなくても同じですが、二名は必ず同じリストに所属する候補で、しかも、男女一人ずつでなくてはいけません。X印を付けなくても、この票は市議会議員候補者個人だけでなく、リストへの投票としても、また、連結している市長候補への投票としてもカウントされます。

決選投票

最初の投票で絶対多数(50%+1)を得る市長候補がいなかった場合、上位2候補による決選投票(ballotaggio)を行います。投票には市長候補者の氏名と連結したリストのシンボルマークが記載された下のような用紙を使用します。記入は、候補者の氏名にX印をするだけです。

出典:http://www.ecodibergamo.it/

 

(B) 人口15,000人以下の市における投票方法

下のような一枚の投票用紙で投票します。人口が15,000人を超える都市と違って、一人の市長候補に対し、一つの市議会議員候補者リストしか連結していないので、見た目がシンプルです。

出典:http://gazzettadimantova.gelocal.it

内務省のページに列記された投票方法は次の4パターンです。

①X印を一カ所だけ、市長候補の氏名の上に付ける
この場合、投票は市長候補だけでなく、候補に連結した市議会議員候補者リストにも投票したこになります。

②X印を一カ所だけ、リストのシンボルマークの上に付ける
この場合も、リストだけでなく、リストに連結した市長候補にも投票したこになります。

③市長候補の氏名の上に一つ、その市長候補に連結したリストのシンボルマークにもX印をつける
記入したとおり、X印をつけた市長候補と、X印をつけた市議会議員候補者リストに投票したことになります。

④市議会議員候補者の氏名のみ記入する
罫線の上に投票したい市議会議員候補者の氏名を記入するだけでも有効投票になります。その場合、記入した市議会議員候補者個人だけでなく、同候補が所属するリスト、そのリストが連結する市長候補にも投票したものとみなされます。
人口5,000人を下回る市では1名のみ、人口5,000人以上15,000人以下の市では2名まで記入できます。2名記入する場合は男女一人ずつ記入します。同性だった場合、二人目が無効になります。

人口15,000人以下の市では「分離投票」が認められていません。

市議会議員ポストの割当方法

上記の方法での投票後、市議会議員のポストは以下の方法で割り当てられます。

(A)人口が15,000人を超える市

以下の3つのケースが想定されています。

(1)市長は1回目の投票で過半数を得て当選したが、当選者に連結した市議会議員候補者リストの得票率が40%に達しなかった、または落選した対立候補のひとりのリストの得票率が50%を超えた場合(可能性はかなり低いが、分離投票を認めているため起こりうる)

⇒リストの得票数をもとにドント方式で議席を割り振る。したがって、当選した市長と対立する勢力が議会内で多数を占める可能性がある。

(2)市長は1回目の投票で過半数を得て当選したうえ、当選者に連結した市議会議員候補者リストが得票率40%以上を獲得し、かつ、落選したどの対立候補のリストも得票率が50%を超えなかった場合

⇒60%の議席が当選した市長に連結したリストに割り当て(プレミアム)、残りの議席はドント方式で割り当てる。

(3)市長は決選投票で選ばれ、かつ、第一回投票において対立候補のリストの得票率が50%を超えなかった場合

⇒当選した市長に連結したリストに60%の議席を割り当て(プレミアム) 、残りをドント方式で割り当てる。

どの場合でも、得票率が3%未満のリストには議席は配分されない。
一位のリストが単純なドント方式で60%以上の議席を獲得できる場合は、プレミアムは適用されない。

60%のプレミアムを獲得できるかどうかが、市政運営のカギになると思われます。

(B)人口が15,000人以下の市

第1回投票時に最多得票を得た候補が市長に選ばれます(同数の場合のみ決選投票)。当選した市長に連結したリストに自動的に3分2の市議会議席が割り当てられます。残りの議席はリストの得票数に応じて、ドント方式で割り当てます。リスト内での割当の順は、個人投票数の多い順になります。落選した市長候補はリストの最初の当選者とされます。

市議会議員候補者のリストの例

市議会議員候補者リストは下のような形で公表されます(15,000人以下のカルロフォルテ市のもの)。非拘束名簿式なので、番号は振ってありません。仮に番号で投票しても無効になります。

出典:http://www.comunecarloforte.gov.it/news/elezioni

参考:
http://www.interno.gov.it/([1] 投票方法)
http://news-town.it/ (画像出所)
http://www.corriere.it/, http://www.comune.campi-bisenzio.fi.it/(議席の配分方法)
http://www1.interno.gov.it/(関連法令)

 

2.選挙直前の政党支持率

選挙の直前に行われた調査によると政党支持率は、下の図表のようでした。

出典:Corriere della sera 2017年5月28日紙面より

五つ星運動(M5S, 30.5%)、民主党(PD, 30.4%)、そして中道右派3党(合計30.6%)の3勢力が拮抗していました。今国政選挙があったらどの党に投票するかというアンケートなので、地方選にそのまま当てはまるわけではありませんが、M5Sの勢いが未だ衰えていないことを示す調査結果でした。

 

3. 選挙の結果

今回の地方選で選挙を行ったのは合計1009の市(コムーネ)です。うち5つの市は5月7日に投票を行ったので、6月11日に選挙をおこなったのは1004の市でした(リスト)。全部で7978ある市の約8分の1にあたります。
参考:http://tg24.sky.it

今回地方選挙が実施された1009市の内訳

投票した市の数 1.009 (7.978 のうちの12,6%)
うち、普通州の市 785 (77,8%)
特別州の市 224 (22,2%)

住民が15,000人を超える市: 160 (15,9%)
住民が15,000人以下の市 : 849 (84,1%)

県庁所在地: 25 ( うち州都 4)

一回目投票で市長が決定した市: 886 (87,8%)
決選投票を行った市 : 111 (11,0%)

投票が無効になった市 : 13

出典:http://www.tuttitalia.it/elezioni-italiane/elezioni-comunali-2017/

 

6月11日の第1回投票の結果

6月11日の第1回投票は意外な結果に終わりました。五つ星運動の候補がほとんど決選投票に残ることができなかったのです。つまり、3位以下で敗れてしまったわけです。

5つ星運動のリーダー、ベッペ・グリッロ氏
「M5Sの今回の選挙でもっとも存在感のある政治勢力だった。他は身を隠していた。特にPDはM5Sの半分の選挙区にしか候補を立てなかった。選挙結果はゆっくりではあるが止まることのない(M5Sの)成長を示している」
«Il M5S è stata la forza politica più presente a questa tornata elettorale. Gli altri partiti si sono camuffati, soprattutto il Pd che si è presentato in circa metà dei comuni rispetto al MoVimento. I risultati sono indice di una crescita lenta, ma inesorabile».

サルヴィーニ北部同盟代表
「この選挙に負けたのはグリッロではなくレンツィだ。これはジェンティローニ政権がもはや誰の代表でもないことを意味する」
«Lo sconfitto di queste elezioni non è Grillo ma Renzi. E questo significa che il governo Gentiloni non rappresenta più nessuno».

情報源:http://www.lastampa.it/

 

決選投票後の結果の内訳

上の図の数字が示すのは6月25日の決選投票の終了後に確定した、人口が15,000人を超える市の市長選挙の党派別当選者数です。

出典:http://www.ansa.it/sito/

上位3勢力の中道左派連合67、中道右派連合59に対し五つ星運動は8と惨敗を喫しました(20は無党派)。五つ星運動はまだ地方レベルでの地盤を築けていないとの指摘もありました。

また、中道左派にとっても全く喜べない結果でした。下の図は県庁所在地で行われた決選投票の当選者の所属党派と、前市長の所属党派の比較です。改選前は14人だった中道左派の市長は、改選後は4人に減りました。一方、中道右派は、改選前の4人から改選後は15人に増えました。

出典:Corriere della sera, 2017年6月26日紙面

 

ジェノバ市の例

人口約60万人の大都市ジェノバでも市長選が行われました。

第1回投票では中道左派連合のクリヴェッロ候補が33.4%、中道右派連合のブッチ候補が38.8%を獲得し、決選投票に駒を進めました。M5Sのピロンディーニ候補は得票率18.1%の3位に終わりました。

出典:Corriere della sera, 2017年6月12日紙面

 

決戦投票では中道右派のブッチ候補が55.2%を獲得し当選しました。左か右への政権交代です。それによりジェノバ市議会(定員40名)の60%にあたる24議席が自動的にブッチ候補に連結していた市議会議員候補者リストに割り当てられました。もっとも多い議席を獲得したのは北部同盟でした。

出典:http://www.ilsecoloxix.it

参考:
ジェノバ市投票結果(内務省):http://elezioni.interno.it

おわりに

今回の敗北を受けて、中道左派内の非主流派がにわかに勢いづいているようです。来年の総選挙で政権を握るのはいったいどの政治勢力なのか、まだまったく予想できない状況です。そのカギとなる選挙制度の改革議論がずっと続けられています。近いうちにその辺りをまとめたいと思います。