イタリアのサッカースタジアム事情

ガンバ大阪の新しい本拠地として、今年2月に開場した吹田サッカースタジアム。陸上トラックのないサッカー専用スタジアムはまるで「欧州リーグのよう」と評判も上々のようです。また、サンフレッチェ広島などの複数のJリーグ有力クラブにも、ガンバに続けと、専用スタジアム建設に向け様々な動きがあるようです。

専用スタジアムというと、どちらかというとイングランドやドイツのイメージが強いのではないでしょうか。イタリアでも、ピッチと客席が近い今はやりのサッカー専用スタジアムを「イングランド風」「ブリティッシュスタイル」と呼ぶことがあります(一例)。

イタリアの大きなスタジアムは、陸上トラックがない場合でも、客席との間にかなりの間隔を置き、障壁を設けるのが一般的です。例えば、現在、イングランド風への改装が進められているセリエAアトランタが本拠地とするベルガモ・スタジアムのゴール裏の場合、ピッチと客席はこんな様子です。出典:www.bergamonews.it

そのイタリアでも新しい流れが生まれつつあります。イタリアのサッカースタジアム事情に関する話題をまとめました。

セリエA所属チームのスタジアム状況

2015-2016シーズンのセリエA所属20チームの本拠地は、下の図のように全部で16カ所。ローマ、ミラノ、ジェノバ、ヴェローナの4都市で2チームがスタジアムを共同で使用しています。プロサッカーにおいても、北部が優勢であることが一目でわかります。

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出典:www.osservatoriosport.interno.gov.it

2年前の2013-2014シーズンの数字では、セリエA全スタジアムの収容人数の平均は39,665人、築年数の平均はなんと61年、16のスタジアムのうち陸上トラックがあるスタジアムは6つ、屋根がある客席の割合は全体の28%となっています。
情報源:www.figc.it, p.180-181.

同年のセリエAリーグ公式戦全試合のスタジアムの総入場可能数は15,072,776人、入場者の合計は8,744,116人だったので、客席が埋まった割合(入場率)は58%に過ぎません。これはプレミアリーグ(96%)、ブンデスリーガ(92%)に比べ極端に劣る数字です。同年のセリエA1試合あたりの平均入場者数は23,011人で、ブンデスリーガ(43,499人)のほぼ二分の一です(下図参照)。
情報源:www.figc.it, p.173-174.

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2013-2014シーズンの、クラブ別の一試合平均の入場者数を欧州の主要クラブと比較すると以下のようになります。セリエA所属チームの入場者数は、英独西の主要チームの数字に比べかなり見劣りします。 出典:www.calcioefinanza.it

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また、入場料収入を総入場者数で割った平均単価は21.6ユーロで、これも、イングランド(48.4ユーロ)、ドイツ(36.6ユーロ)、スペイン(39.7ユーロ)を大きく下回っています。
情報源:www.figc.it, p.175.

他国のビッグクラブに比べ客が少なく単価が低ければ、スタジアムから得られる収益は、当然、大幅に下回ることになります(下図参照)。出典:www.calcioefinanza.it

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これでは欧州の強豪たちに対抗できるはずもありません。そんな中、スタジアムを所有して収益を増やしているチームもあります。

クラブ所有のスタジアム

ユベントススタジアム

セリエA最多優勝を誇るユベントス(トリノ)は、2011-2012年シーズンからユベントススタジアムをホームグラウンドにしています。ピッチと客席の近い「ブリティッシュスタイル」のスタジアムの人気は高く、チケットが入手しずらい状況が続いています。

そのユベントスも、以前は、1990年のワールドカップ・イタリア大会直前に建設された陸上スタジアム(スタディオ・デッレ・アルピ)を、ライバルチームのトリノと共同で使用していました。2003年にユベントスは、このデッレ・アルピの99年間の地上権を1170万ユーロでトリノ市から取得し、サッカー専用スタジアムへの建て替え計画を進めます。途中、八百長スキャンダルが起きて計画が遅れることもありましたが、2011年に無事完成。ちなみに、ライバルチームのトリノは、デッレ・アルピの取り壊しまで使用料をユベントスに支払って使用し、その後は市立スタディオ・オリンピコに本拠地を移しています。

完成したスタジアムは、まさに、ユーベの、ユーベによる、ユーベのためのスタジアムに仕上がっています。総工費は約1億2千万ユーロ、収容人数はデッレ・アルピ(約7万人)よりも少ない41,475人。新スタジアムの効果もあり、ユベントスのスタジアム収入は、移転直前のシーズン(トリノと同じスタディオ・オリンピコを使用)の1100万ユーロから昨シーズンは5100万ユーロに達したとのこと。
情報源:www.ilsole24ore.com www.treccani.it 他

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このユベントススタジアムは、クラブが自ら所有しています。クラブ所有のスタジアムであれば、コンサートなどのサッカーの試合以外のイベントの使用料や、スタジアムの関連施設での収入もクラブのものとなります。また、補修や改修をクラブの裁量で行うこともできます。

下の表のように、2013-2014シーズンのイタリア・セリエA所属20クラブのうち、スタジアムを直接に所有するクラブはたった2クラブに過ぎません。関連会社による所有を含め、20のうち18のクラブが自前のスタジアムをもつイングランドリーグとは大きな違いがあります。情報源:www.figc.it, p.176.

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飛躍するサッスオーロ

セリエAで今シーズン上位をうかがう勢いのサッスオーロは、エミリア・ロマーニャ州モデナ県の小都市サッスオーロ市に本拠を置くサッカークラブ。オーナーのジョルジョ・スクインツィ氏(ミラニスタ)は、最も有力な経営者団体「コンフィンドゥスリア」の会長も務める財界の大物(任期は2016年5月まで)。

クラブの親会社マペイが、2013年12月に、競売に出された本拠地スタジアム(1995年完成、収容人数21,584人、所在地はサッスオーロ市ではなくレッジョ・エミリア市)の所有権を取得したことで、サッスオーロはスタジアムを所有する二つめのクラブになりました。ちなみに、同じスタジアムを共同で使うクラブ、レッジャーナもレッジョ・エミリア市と共同出資する会社で競売に参加したものの、マペイに敗れています。情報源:www.ilsole24ore.com 他

ウディネーゼのスタジアム改修

セリエAの中堅クラブ、ウディネーゼは、2013年に本拠地スタディオ・フリウリの地上権を取得し、スタジアム改修に着手。陸上競技場のメインスタンドだけ残し、あとの3辺のスタンドを新築するという方法でブリティッシュスタイルのサッカー専用スタジアムを実現しました。2016年1月に2年半にわたる改修がようやく終了。下は改修前と改修後の比較写真です。客席の収容人数は40,000人から25,144人に減りましたが、観客と選手との距離は格段に縮まりました。
情報源、写真出典:news.superscommesse.it

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新しい客席はとてもカラフルです。出典:http://forum.meteonetwork.it

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ただ、今、命名権がらみで行政ともめているようです。
情報源:messaggeroveneto.gelocal.it/

その他の動き

ローマでも新スタジアム計画が実際に進行しています。一方、ミラノの場合、ミランのベルルスコーニ会長が「サンシーロスタジアムへの愛着」を理由に移転を断念。ミラン移転後はインテル専用スタジアムとして改装する計画もストップ。ここらへんの事情は、また次の機会に。

日本とイタリアはどちらも「ブリティッシュスタイル」のスタジアム建設の機運が高まっているようです。ただし、一つ大きな相違点があります。日本の吹田サッカースタジアムは、完成後、吹田市に寄贈する形をとりました。その大きな理由の一つは、寄付金を「ふるさと納税」を利用して集めたことと関わりがあったようです。
情報源:www.nikkeibp.co.jp

一方、イタリアでは、スタジアムを所有することがクラブのひとつの大きな目標になっています。(了)

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