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秋に憲法改正のための国民投票実施

投稿:2016年07月27日 | 更新:2016年07月27日

2016年4月、議会改革を含む大がかりな憲法改正案が議会を通過しました。この法案は、この秋に予定されている国民投票で無事承認された場合に限り、実施されます。そのポイントを簡単にまとめてみました。

 

1. 法案の議会通過までの経緯

2014年の2月に発足したレンツィ政権は、同3月、改革の大綱を発表しました。そこには、

● 上院改革 (選挙廃止、手当廃止、審議の迅速化)
● 憲法第5章 (州、県、市) 改正 (国と州の権限競合解消)
● 国家経済労働会議(CNEL)
● 県の改革(憲法第5章から削除)
が含まれていました。
情報源:http://www.governo.it/sites/governo.it/files/lasvoltabuona_20140312.pdf

そして、2014年4月、上記の改革に必要な憲法改正案が議会に提出されました。まさに電光石火の速さです。今回の憲法改正案は、発議者のレンツィ首相とボスキ憲法改革・議会関係相の名前をとってレンツィ=ボスキ憲法改革、ボスキ法案などと呼ばれています。

22/10/2014 Roma, aula del Senato, comunicazioni del Presidente del Consiglio dei Ministri sul Consiglio europeo del 23 e 24 ottobre 2014, nella foto Maria Elena Boschi e Matteo Renzi

右がレンツィ首相、左がボスキ憲法改革・議会関係相。出典:http://www.huffingtonpost.it/

憲法改正案は一般の法案と異なり、可決のためには議会の絶対多数の賛成票を必要とし、かつ、各議会で二度承認される必要があります。一度目と二度目の議決には3ヶ月以上の間隔を置きます(憲法第138条)。

本案はまず上院で審理が始まり、2014年8月に無事可決承認。下院に送られた法案は2015年3月に修正付きで通過し再度上院へ。修正があると再度もう一方の議会の承認を受ける必要があります。そして、7ヶ月後の2015年10月、再び修正が加えられた法案が上院を通過。また修正があったため再度下院へ。2016年1月、下院は上院から送られてきた法案をそのまま可決承認。これでようやく一回目の承認が終わりました。次に2度目の採決です。上院は2015年10月に一度目の承認をしているので、下院の議決後にすぐ二度目の承認をします。そして、2016年4月、下院の二度目の採決においても絶対多数を獲得し、最終的な議会通過となりました。政府案の議会提出から議会通過まで丸2年かかりました。
情報源:www.senato.it

この憲法改正案は4月15日の『官報』に掲載されました。通常、法律は大統領が公布したあとに官報に掲載されますが、国民投票にかけられる憲法改正案は、国民に広く周知させる必要から、法案の段階で掲載されます。

憲法の規定によれば、憲法改正案は、両院で議員の三分の二以上の賛成票を得た場合、国民投票を経ることなく成立します。今回のボスキ法案は両院とも三分の二の賛成票を獲得できなかったので、国民投票にかけられます。国民投票はこの秋(10月か11月)に実施される予定です。
情報源:www.camera.it, www.ilgiornale.it

 

2. おもな憲法改正ポイント

議会制度(とくに上院)の全面的な改革(第55条等改正)

後述。

大統領選挙のルール改正(第83条改正)

大統領は七年任期で、上下院合同の投票で選ばれます(上下院議員の他、各州から3名(ヴァッレ・ダオスタ州のみ1名)選ばれた「地方代表」が参加)。この仕組みそのものは改正後も維持されます。変更されるのは、当選に必要な票数です。
議会での選挙は誰かが必要な票数を獲得するまで何度も繰り返して行われます。従来、1回目と2回目の投票では全体の三分の二、三回目の投票からは絶対多数が大統領選出の必要票数とされていました。改正後は、6回目の投票までは全体の五分の三、7回目の投票以降は投票数の五分の三が選出に必要な票数となります。また、後述の議会改革に伴い、上記の「地方代表」の参加は廃止されます。

国と地方との権限配分の見直し(第117条改正)

国と州の権限区分をより明確にし、ダブりを解消します。また、エネルギー、インフラなどに関する一部の権限は、州から国に再び戻されます。
参考:http://www.camera.it/

県に関する憲法の規定の削除(第119条改正)

従来のイタリアの地方自治制度は、州県市(regione – provincia – comune)の三重構造でしたが、2014年の地方自治改革(デルリオ法)により、県議会の直接選挙が廃止されるなど、県の権限が大幅に縮小されました。今回の憲法改正で、県は憲法の規定から姿を消します。
なお、ローマ、ミラノなどの大都市を含んでいたいくつかの県はすでに正式に廃止され、大都市(città metropolitana)に衣替えしました。原則として従来の県と同じ範囲が大都市に指定されています。大都市長には、従来の県庁所在地だった市の市長が自動的に就任します。
参考:http://www.governo.it/

国家経済労働会議の廃止(第99条の削除)

国家の経済労働政策に助言と提言を行うための機関として憲法で規定されていた国家経済労働会議(CNEL)を廃止します。これまであまり有効に活用されてなかったようです。

 

3. 議会改革のポイント

●下院は地方自治体の代表に
●上下院の対等関係から下院優越へ
●一院制に近い立法過程へ
●上院の議席数が315から100に
●そのうち95議席は地方議会の議員および市長
●残り5議席は大統領の任命する任期7年の議員
●大統領の任命する終身上院議員は廃止

下院は地方自治体の代表に

「国会議員は全国民を代表する」という第67条の文言が第55条に移動すると同時に、「上院は全地方自治体を代表する( Il Senato della Repubblica rappresenta le istituzioni territoriali )」という文言が新たに第55条に加えられます。後述するように、改正後は上院議員は国民の直接選挙ではなく、地方議会で選出されます。

上下院の対等関係から下院優越へ

イタリアの上下両院は完全対等を原則としています(bicameralismo perfetto)。たとえば、日本では衆議院しか内閣不信任案を決議することができませんが、イタリアでは両院の権限が完全に対等であるため両院で可能です。この完全対等の原則について、法律の審議が長くなるなど、様々な弊害が指摘されてきました。今回の憲法改正案では、下院の優越が規定されています。

一院制に近い立法過程に

特定のカテゴリーに含まれる法案の審議については、これまでの二院制システムが維持されます。例えば、憲法改正案や上院の選挙法、それにEU加盟に関する条約の批准などがそれに含まれます。
それ以外の法案(予算案を含む)は、最初に必ず下院から審議が始まります。下院を通過した法案は10日以内に上院に送られます。そして、上院議員の三分の一の賛成がある場合に限り、上院での審議が行われ、30日以内に、修正の提案をするかどうかを決めます。下院は上院による修正の提案があった場合、その修正案について審議し最終的な決定を下します。修正の提案がなければそのまま議会通過となります。
予算案は、かならず上院の審議を経る必要があります。ただし、予算案に関する修正の提案は通常より短い15日以内に議決する必要があります。
参考:http://www.camera.it/

上院の議席数が315から100に

上院の議員数は315から100に大幅に削減されます。100名のうち、95名は各州に割り振られ、州議会で選ばれます。そのうち21名は州内の市長から、残り74名は各州の州議会議員からの選抜になります。任期はもとの職務の任期(市長なら市長の任期が切れるまで、州議会議員なら州議会議員の任期が切れるまで)で、議員手当は支給されません。
参考:http://www.rainews.it/

残り5議席は大統領が指名する任期7年の議員

大統領が任期7年の上院議員を5名まで指名できます。イタリア上院には終身上院議員制度があり、現在、大統領経験者(2名)以外の、大統領によって任命された終身上院議員が4名います。辞任しない限り彼らは生涯その地位を維持できます。今回の改革でこの終身制度はなくなりますが、すでに任命されている終身上院議員は改革後もその地位を維持します(法案第39条7項)。この4名は、新しい規定の5名の中にカウントされるとのことなので、空きは1名だけということになります(法案第40条)。

戦後の終身議員一覧:https://www.senato.it/
2016年7月現在の終身上院議員:http://www.senato.it/

 

以上が今回のレンツィ=ボスキ憲法改革のおもなポイントです(あくまで抜粋)。非常に野心的で大胆な内容かと思います。長年の懸案を一気に片付けようとするレンツィ政権の発足時の意気込みがそのまま反映されています。

イタリア人はこの改革を支持するでしょうか。

今回の改革が実現すれば、「選挙に勝って政権を担った勢力が自ら掲げた政策を実現する」という当たり前といえば当たり前のことがやりやすくなります。また、上院の経費は劇的に削減されると思われます。

しかし、早い判断が必ずしも正しい判断とは限りません。時には時間をかけた熟慮も必要です。ま た、上院の維持コストも、はたして削るべき箇所なのか疑問が残ります。大多数の市民は「民主主義の必要経費」として許容しているものではないでしょうか。

政権政党に権力が集中しすぎないか、という懸念もあるかと思います。往々にして「改革が遅々として進まない」ことをネガティブに捕らえがちですが、 政権が変わるたびに「大胆な改革」が実行されることが本当に望ましいことなのか、実のところわかりません。

国民投票の結果を左右する台風の目は、市民運動から生まれた有力政治勢力「五つ星運動」の動向になりそうです。近いうちにそのあたりの話題をまとめたいと思います。

カバー写真出典:https://www.forexinfo.it/