2018年3月、イタリア総選挙が行われ、6月、コンテ新政権が発足しました。選挙から政権成立までの一連の流れを簡単にまとめます。まずは選挙結果から。
2017年12月、上下両院が解散
2017年12月、イタリアの上下両院が解散し、2018年3月4日が選挙日と定められました。日本と違って毎回上下両院が同時に解散し、同時に選挙を行います。
選挙戦に参加した主な勢力
今回の総選挙に参加した主要な政党および政党連合は次の4つです。
・中道右派連合(フォルツァ・イタリア、Lega、FDI、NcI)
・中道左派連合(民主党、+Europa、Insieme、CP Lorenzin)
・五つ星運動
・自由と平等(LeU)
選挙の仕組み
現行の選挙制度は小選挙区制と比例代表制とを組み合わせたものです。得票率3%を下回った政党には比例区の議席を配分しないという規定があるため、とくに小勢力は、議席を得るために多少方向性が違っても政党連合に参加するという現実的な選択を迫られます(詳しくはイタリア選挙制度まとめ参照)。
対立の構図
今回の選挙は、無党派市民運動から巨大政治勢力にのし上がり、いよいよ第1党を狙えるところまできた「五つ星運動」を、既存の左右勢力が各々政党連合を組んで迎え撃つ三つどもえの構図となりました。
勢いに乗る五つ星運動は前回2013年の国政選挙と同様に単独で選挙を戦いました。リーダーは31歳と破格に若いルイージ・ディマイオ氏。下の産経の記事はやや冷やかし気味に彼を紹介しています。
⇒ イタリア首相候補は31歳の元フリーター(産経ニュース)
ちなみにこの五つ星運動は、内外のマスコミや学者から懐疑的なニュアンスを込めてよく「ポピュリスト(大衆迎合的)政党」と呼ばれますが、かつての日本のポピュリズムの旗手、橋下徹氏はこれをレッテル貼りだと批判しています。
⇒ 橋下徹 “新聞のポピュリズム論を信じるな” (PRESIDENT Online)
中道右派連合は、ベルルスコーニ氏率いるフォルツァ・イタリア、全国政党を目指して「北部同盟」から「北部」を取って勢い盛んな同盟(Lega)の他、ベルルスコーニ氏とけんか別れした旧フィーニ派でネオファシズム運動の流れをくむ「イタリアの同胞(FDI)」、そして、候補者名簿の提出締切直前に合流が決まった「イタリアと共に(NcI)- UDC(ベルルスコーニ氏が上院議員の地位を失った後に野党に回った同氏を中心とするグループから分離して政権に残った一派やキリスト教穏健派らによるグループ)」の4者の連合。
出典: https://www.quotidiano.net
出典: http://www.ilsussidiario.net
選挙前の調査ではこれら3つの勢力の支持率は拮抗しており、3つのうちのどれかが単独過半数を獲得する可能性は低く、投票前から「統治不可能(ingovernabilità)」の事態に陥ることが危惧されていました。
選挙結果
五つ星運動と右派連合の勝利、左派連合の敗北に終わりました。
【ディマイオ氏(五つ星運動)の選挙後記者会見】
(字幕をオンにして、日本語への自動翻訳をオンにすると日本語字幕で概要を知ることができます)
(字幕をオンにして、日本語への自動翻訳をオンにすると日本語字幕で概要を知ることができます)
(結果は「ラ・レプッブリカ」特設ホームページに基づく)
下院は、五つ星運動が32.7%と最も高い得票率を獲得しました。パーセンテージの下の数字は比例区で獲得した議席数です。「自由と平等」までが足切りラインの3%をクリアし、議席を得ました。
出典: https://elezioni.repubblica.it
上院も同様に五つ星運動が最も多い32.2%を獲得。こちらも「自由と平等」までが3%の足切りラインを超えました。小選挙区では議席獲得が絶望的だった「自由と平等」ですが、上下院とも足切りラインを超え、比例区で議席を獲得しました。
出典: https://elezioni.repubblica.it
【小選挙区】
小選挙区は、北部で右派連合が、南部で五つ星運動が勝利しました。下の図の青色が右派連合、黄色が五つ星運動、赤が左派連合の候補者が勝利した小選挙区です。民主党はレンツィ元首相のお膝元のトスカーナ州などのごく一部の選挙区を除いて敗れました。
(図1)下院小選挙区当選者政党マップ
上下院とも三勢力が鼎立する状況となりました。
下院は最大勢力となった中道右派連合が全360議席のうち265議席を獲得。政党別では、第1党は五つ星運動(227議席)、第2党は同盟(121議席)。
出典: 「コリエッレ・デラ・セーラ」紙3月8日3面。
上院も同様の構成で、中道右派連合が全315議席のうち137議席を獲得。政党別では第1党は五つ星運動(112議席)、第2党は同盟(58議席)
出典: 「コリエッレ・デラ・セーラ」紙3月8日3面。
主要政治家の当落(肩書きは選挙当時のもの)
〇サルヴィーニ同盟書記長
元北部分離主義者(現在は分離を主張しないことを明言※)ながら今回はなんとブーツのつま先にあたる上院カラブリア州比例区で当選を果たしました。
※Salvini, mai più secessione (http://www.ansa.it)
〇レンツィ民主党書記長
2014年2月に国会議員未経験のまま首相となり2016年12月まで務めたレンツィ氏は、今回、上院トスカーナ州小選挙区(フィレンツェ)で初当選を果たしました。
〇ボスキ首相府政務次官(民主党)
レンツィ政権の改革担当大臣として活躍したトスカーナ州出身のボスキ氏は、より安全な下院トレンティーノ・アルトアディジェ州小選挙区(ボルツァーノ)で立候補し再選されました。
〇グラッソ上院議長(「自由と平等」リーダー)
上院シチリア州小選挙区と比例区で重複立候補したグラッソ氏は、小選挙区では敗れたものの比例区で復活当選し、上院の議席を維持しました。
〇ベルサーニ元民主党書記長(「自由と平等」)
2013年の総選挙時の民主党リーダー。民主党を離れ「自由と平等」から出馬。下院ヴェネト州小選挙区で敗れたものの、エミリア・ロマーニャ州の比例区で復活当選し、下院の議席を維持。
〇ロレンツィン保健相(「市民・人民」リーダー)
政党連合に参加したことが功を奏し、下院エミリア・ロマーニャ州小選挙区(モデナ)で58%の票を集めて再選されました。
●ダレーマ元首相
2013年の前回選挙には出馬しなかったものの政治活動を継続。2017年に民主党を離れ、今回は「自由と平等」から上院に立候補し落選。
(参考)ベルルスコーニフォルツァ・イタリア党首
2019年まで公職禁止のため不出馬(上院議員だった2013年に汚職事件の有罪判決を受け失職)。
左翼勢力の敗因
民主党連立政権の移民政策の不人気、エトルリア銀行に関連するスキャンダルなどが敗因として指摘されています。また、民主党大敗の原因は「民主党が左翼であることをやめたこと」であると言う人もいます。労働者の権利を守るなどの本来期待される役割とは逆方向の政策を実施したため、伝統的な左翼支持者の票の多くを失ったとの見方です。
参考ページ:
Ecco perché il Pd ha perso nelle Regioni Rosse (www.ilgiornale.it)
De Masi: “Pd ha perso perché ha smesso di fare la sinistra” (www.ilgiornale.it)
登場時は高い人気を誇ったレンツィ氏も、その強引な政治手法や高飛車な態度などから次第に嫌う人が増えていたようです。ベルルスコーニ氏から人物を買われ、レンツィ政権発足時に合意を交わすなどしたことから、なんとなくベルルスコーニ色が付いてしまったことも今回不利に働いたかもしれません。
(新政権まとめにつづく)
参考ページ:
立候補者名簿(内務省)
選挙全結果(内務省)
「ラ・レプッブリカ」紙選挙特集
[みずほインサイト]イタリア総選挙後の情勢展望(PDF)